ウェブマガジン CM Funコラム

「素顔をさらして立つ」ひと。
その意味と道のり。

あゆみ

「ニュースサイトにもワイドショーにも取り上げられた
旬なネタだから書いとくか」…そんなことでは全くないんです。

「このサイトでこの私が取り上げなくてどうする」。
そんなふうに(ひとり勝手に)使命感にかられたので書きます。

リリースされたばかりで驚異の再生回数を誇る、こちらのCMのお話。

キリンビール キリンチューハイ氷結 CM

0|0|0
HA
面白い!
好き!
感動!
いや仰天しますよね。サングラスも外し、
リーゼントもおろした綾小路さん。
コピー通り、あたらしすぎる。

「誰か全く分からない」「イケメンじゃん!」
「ビジュアル系いけそう」「土屋アンナ…?」
「これを機にリーゼント卒業?」
ネットにはいろんな感想がありました。


告白します。わたくしもう13年来くらいの
バリバリの氣志團ファンでございます。

なので綾小路さん(私たち的には翔やんと呼ぶ方が
馴染みがあります…)のサングラスはずした素顔、
というのは以前から存じ上げてはおりました。

だけど髪をあんなにストレートにスタイリングし、
真っ白でラフな服を着ている彼は初めてで、
そこは皆さんと同じく仰天しています。

でももっと驚いて、心震えているのは
その理由だけではありません。


ライブ(氣志團の場合はGIGと呼ばれています)の最中、
自分に対し「かっこいいーー!」という黄色い声があがると
彼はそれをやんわりと制して言うのです。

「待て待て。それはちょっと違うぞ。正確には
 『世間的にはどうか分からないけど、私たちにとってはかっこいい!』
 だからな?間違うなよ。じゃ言ってみよう、せーの!」

そこで私たちはその長い注釈つきの声援を送るのです(笑)

実は彼は折に触れ、こんなエピソードを私たちに聞かせてくれるのです。

 小さい頃は母親に溺愛され、可愛い可愛いと言われて育った。
 だから自分がイケてると信じて疑わなかった。
 なので光GENJI全盛の時、ジャニーズ事務所に履歴書を送ろうとしたら
 その母親に泣いて止められた。「どうして!?」と聞くと
 「お母さんにとっては最高に可愛いけど、世間的にはそうではない」
 という返事がきて、大層ショックだった。
 そこで自分はイケてないのだと初めて知り、世界が変わった。

声援に律儀に注釈をつけたがるのは、
おそらくそのトラウマから来ているのでしょう(笑)

とても微笑ましいエピソードなんだけど、
長年氣志團を追っかけている私には、
ここから端を発する彼のコンプレックスが
意外と根強いものだ…と常々感じているのです。

そして同じくコンプレックスだらけの自分にとって
そのモヤモヤや葛藤にはものすごく共感するし、いつも励まされるのです。


ロックミュージシャン、バンドマンというのは、
「いかに格好つけるか」が命だったりします。

だけど翔やんは少し違って、
己の外見や内面に対するコンプレックス、
うまく立ちまわれない不甲斐なさみたいなものを
現在進行形で素直に(時に自虐的に)出しつつ、
その上に「あのとき憧れたスターや地元の先輩」のような
無敵のヒーローぶりと男らしさをまとう、というかたちを
とっているのが面白いのです。

俺ってダメなんだよ。格好良くなれないんだよ。
でも俺について来いよ。俺が守ってやるぜ。
その両極を過剰に揺れ動く男。

コンプレックスがあるから、この鎧をまとってヒーローになった。
この鎧があるから、コンプレックスなんか吹き飛ばせる。
格好悪いやつがもがくから、なんだかやけに格好いい。

その鎧というか、自分をヒーローにしてくれる一番格好いいアーマーが
氣志團にとっては「リーゼントと学ラン」なのです。


…だから長々と書いて結局何を言いたいかというと、

それを両方取っぱらった上でオフィシャルな場に出て
それが全国に広まってしまう、というのは
女子が全くのすっぴんにレオタードでカメラの前に立つがごとく、
ものすごい勇気と決断のいることじゃないのかい!?と思うのです。

それをやったことが、ものすごいなと。


ではここで他のお2人のバージョンも観てみましょう。

キリンビール キリンチューハイ氷結 CM

0|0|0
HA
面白い!
好き!
感動!
氷結 あたらしくいこう 松坂桃李篇

キリンビール キリンチューハイ氷結 CM

0|0|0
HA
面白い!
好き!
感動!
イケメンと美女の意外な一面ではあるし素敵なんですけど
「イメージを裏切る」パワーは、ちょびっと少ない。
翔やんバージョンの画の強さには、かなわない。


オラオラでイケイケに見えてその実
時に乙女っぽくすらある傷つきやすい内面を持つ人が
思い切って素になってみた、その経緯と心境を考えると
長年のファンだけに、何か色々とこみあげてきます(笑)


多分それは、ルックスを整えてケアしたとかではなく、
ここまで「自分のやるべきことをコツコツやってきた」男の自信が、
ある程度の大きな塊になったからなのかな…なんて私は勝手に思うのです。


「かなりインパクトあるしバズりますから、
 いっちょやってみましょうよ綾小路さん!」
広告マンのそんな狙いだけで出来たCMではないと
思ってしまったのは、私がファンだからでしょうか(笑)


「お手入れ」だけでは、自分を好きになることは難しい。
外見を磨くことだけでは、自信は出てこない。

他人から見たら大したことがなくてもいいから、
自分がいま一番やらなきゃいけないこと、やりたいことを
日々やっている人だけが、いつか己を好きになる。
飾らないままさらけ出しても、胸を張って堂々といられる。

そしてそのときの顔は、唯一無二のいい顔であり、
文句なく格好よく美しく、誰もが忘れがたい。

そんなことまで、このCMから感じてしまったのは、
私がファンだから、なのかもしれませんけどね。

(執筆者: 近藤あゆみ)

執筆者:

あゆみ

博報堂コピーライターからなぜかダンサーに転身。その後 (株)ネットプライス創業時からライター&クリエイティブディ レクターとしてEコマ―スに携わる。日本初の共同購入「ギャ ザリング」やブランド買い取り「ブランディア」の名づけ親。 「広野ゆうな」のペンネームでメルマガやブログを15年以上 書き続け、一部にコアなファンを持つ。現在はフリーでライ ティング、ネーミング、コピー、コラム、振付など手がける。

他のコラムを見る

前後のコラム

人気のコラム

最新のコラム

コラム一覧を見る