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怪物をつくるのは誰か。

近藤あゆみ

クリスマスの余韻も消え、大晦日に向けて走り出す中で
完全にタイミングを逃したピックアップなのだけど、
激しく心打たれてしまったのでここに残しておきたい。

アップルのクリスマスシーズンのCMだ。

Apple — Frankie’s Holiday (詳細)

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HA
面白い!
好き!
感動!
CMを観ているうちに泣けてきたのは初めてだ。

私はフランケンシュタインをはじめとする「異形の者」に弱い。

物語の中で彼らはおしなべてもの静かで心優しく、
でもその容貌のせいで人々から迫害され、悲劇に見舞われる。
子供の頃から、その理不尽さが悔しくてかなしくて、どうしようもなかった。

この巨体の人造人間は「フランケンシュタイン」という名で呼ばれているが、
そもそもは「フランケンシュタインという名の青年がつくった怪物」であり、
怪物個人の名前は、ない。

科学者を志した青年の研究に対する熱意の狂気の果てに
人間の死体をつなぎ合わせた人造人間として誕生した怪物は、
その容貌のあまりの醜さ奇怪さに、生みの親である青年からも、
すべての人間からも忌み嫌われ迫害される。 
人間に絶望した怪物は、最後には愛されもしなかった
生みの親である青年の死を嘆き、自らも死ぬために北極海に消える。

こうして原作のあらすじを追うと、そのあまりの切なさに絶望する。


そんな悲劇の怪物である彼はしかし、このCMでは最後に救われる。
静かに低く口ずさまれるクリスマスソングが、胸に沁みる。


誰かの都合で生み出され、容貌の特異さで嫌われ迫害され、
己の存在意義と人間を呪う。 
自分とあまりに違う姿形や習慣や価値観を持つ者を遠ざけ、
野蛮と決め、石を投げる。

こういうことは、人間社会の同じ人間同士でも、
いま現在、たくさん起こっていることだ。 
そしてCMのおとぎ話とは違い、
現実で「怪物」とされたものたちは
なかなか救われることはない。

このCMに「そうだよね」とうなずいた私たちも、
現実となると、この少女のように歩み寄れたりはしない。

この小さな島国でさえ、ひとつの民族、ひとつの言語で
何となくやっていけた時代は完全に終わった。
あまりに違う人々、ことば、価値観がどんどん入ってくる。 
それを遠巻きに、眉をひそめているわけには、もういかないし、
そうやっていては、絶対にいけないのだ。

Open your heart everyone.

CMのメッセージは、気のきいた締めのコピーではなく、
もはや岩に刻み込んでおくくらいでちょうどいい心構えなのだと思う。

違いをおそれないこと。遠ざけないこと。 
そして、違いは違いとして認めあうこと。 
そのために、心を開きやすく
なるべく平らにしておくこと。

殺伐とした現実に対してあまりにファンタジーかもしれないが、
それでもファンタジーが世界を変えないとは言い切れない。

クリスマス限定なんかではなく、このCMは来年も時折眺めたいなと思う。




※ちなみに日本版CMはラストのメッセージが
「心を開こう、誰にでも」と和訳されているだけの違いだが、
あとひとつ、タイトルが「Frankie’s Christmas」となっている。
アメリカ版では「Frankie’s Holiday」なのだ。
キリスト教徒以外にもさまざまな宗教のひとたちがいるので
「メリークリスマス」ではなく「ハッピーホリデイ」と声をかける国ならでは。 
「違い」への気くばり、まずはそこからだ。
執筆者:近藤あゆみ
博報堂コピーライターからなぜかダンサーに転身。その後
(株)ネットプライス創業時からライター&クリエイティブディ
レクターとしてEコマ―スに携わる。日本初の共同購入「ギャ
ザリング」やブランド買い取り「ブランディア」の名づけ親。
「広野ゆうな」のペンネームでメルマガやブログを15年以上
書き続け、一部にコアなファンを持つ。現在はフリーでライ
ティング、ネーミング、コピー、コラム、振付など手がける。

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