ウェブマガジン CM Funコラム

サラリーマンは「つまらない」か。

近藤あゆみ

私はダンスをやっているので、時おりダンス公演を観に行く。
曲ごとにさまざまなテーマを描いてダンサーが舞う中、
わりとよく出てくるモチーフが「スーツを着たサラリーマン」である。

使われ方はいつも決まっている。 
同じようなネズミ色のスーツを着た没個性な群れがひしめきあう。
時に満員電車で、時に街の雑踏で、信号待ちで。
それは社会の体現であり、「つまらないもの」の具現化だ。
メインの踊り手はそこに飲まれ、もがき、そして抜け出す。
そうして初めて自分の日々に色がつき、生き生きと動けるようになる。

ダンスに限らず、歌にも物語にも、
サラリーマンはそういう象徴として使われる。

私は、それがいつも気に入らなかった。 
なんでスーツのサラリーマンには顔も意志もないのだ。
群れて同じように移動してゆくだけで夢のかけらもないのだ。
なぜ、あなたたちは彼らをそう描くのか、と。

仕方ない。私だって20代半ば、そういう群れと同じ電車に乗り、
同じ改札を抜けて同じルートで会社に向かう自分が嫌でいやで、
「ダンスをやりたい」という理由で辞めたから。
あの時、私にとってサラリーマンはまさに描かれている通りの象徴だった。

ところがダンスで飯を食うことに挫折して再び勤め人になり、
30代、40代と過ごしていくうちに考えは変わった。
一見、顔のない群れに見えるサラリーマンにもそれぞれに大事な宝物があり、
守りたいもの、叶えたい夢があり、日々喜びや悲しみや達成感を持ち、
それぞれ懸命に生きて暮らしているのだと気づいた。

当たり前だ。
人にはそれぞれのやりがいと幸福、そして大切な思いがある。
そこに気づかなかったかつての私は、しょうもない子供だったのだ。

イメージだけで勝手にレッテルを貼るのは、無知無理解ゆえの残酷。
先入観をなるべく持たず、「顔のない集団」として捉えずに
1人1人を人間として見ようとして初めて、大人になったと言えるのかもしれない。

……前置き長いわ。すみません。

なんでだらだらとそういうことを書いたかというと、
最近、このCMを観てその感覚を久しぶりに思い出したのだった。

コカ・コーラ ジョージア・エメラルドマウンテンシリーズ 【ジョージア】 エメラルドマウンテンブレンド 山田孝之 TVCM「おつかれ、俺たち。」篇 30秒 GEORGIA TVCF (詳細)

0|0|0
HA
面白い!
好き!
感動!
営業マンと鳶職、お互いがお互いを「楽そうでいいなー」と思うが、
よくよく想像してみたら「いや自分にゃ無理だ、大変な仕事だわ」と思い直し、
相手に心の中でエールをおくる。

ちょっと単純でマンガちっくに描き過ぎてるけど、
私はこの流れがとてもいいなあと思った。

自分とまったく違う人への理解や思いやりは、
こういう想像力をはたらかせるかはたらかせないかによって決まるから。
例えば「専業主婦ってずっと家にいるし楽そうでいいよな」なんて暴言は
こういう想像力を働かせることができたら、決して出ない言葉だから。

(ちなみに、さんざっぱら相手について考えてたのに最後にゴミ箱の前で
笑顔でアイコンタクト取ったりせず、おどおどと譲り合うシーンも面白い。
こういうのって日本人ぽいなあ)

「おつかれ、俺たち。」こう思い合える社会は、あたたかい。


そして先月友人に教えてもらったこのCMもまた、
それぞれの働き方とたたかい方へのあたたかさを感じた。

GABA 亀田興毅「FIGHT×STRESS」篇  グリコ

0|0|0
HA
面白い!
好き!
感動!
友人は「この歌で竹原ピストルを知って…すごくいいんだ」ということで
これを教えてくれたのだが、CM自体もとても胸に迫る。

これは引退した亀田のその後なのか、それとも「if」の世界なのか。
ひたすら頭を下げ、気を使い、残業をし…まさに絵に描いたような
サラリーマンであり、これを「かっこわるい」と捉えることもできる。
だけどその姿はなんだかじわじわと熱くて、見ていると鼻の奥がツンとする。 
ファイターである亀田がやるから、竹原ピストルの歌声が響くから、
「かっこいい」風に見えるだけなのかもしれない。

だけど合間に挿入される普通のサラリーマンたちのカットで思うのは、
かっこわるいかもしれないけど、これは決して「つまらない」ことではない、
ということだ。

自分の仕事。隣の仕事。
そこにはたらく自分と誰か。 
個性や意志が見えないかもしれない。
安穏としているように見えるかもしれない。 
だけどそれぞれの日常には、亀田が演じたようなドラマがある。
ただそこに、劇的なBGMが鳴らないだけだ。

「それじゃただの大人だろ」と竹原ピストルは喝を入れる。
そうなんだ。それだけじゃ、ただの大人なんだ。 
だけど、つまらなくはない。
つまらない仕事や職業なんて、きっとない。

それを描いているCMを見ると、
なんだかちょっとうれしい。 
ただの大人の中に、
なんだかちょっと力がわく。
執筆者:近藤あゆみ
博報堂コピーライターからなぜかダンサーに転身。その後
(株)ネットプライス創業時からライター&クリエイティブディ
レクターとしてEコマ―スに携わる。日本初の共同購入「ギャ
ザリング」やブランド買い取り「ブランディア」の名づけ親。
「広野ゆうな」のペンネームでメルマガやブログを15年以上
書き続け、一部にコアなファンを持つ。現在はフリーでライ
ティング、ネーミング、コピー、コラム、振付など手がける。

他のコラムを見る

前後のコラム

関連記事

人気の記事

新着記事

コラム一覧を見る