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【特集】
広告史にキラキラ輝く、
‘80年代の「ウイスキー」1

岡田直也

1980年代の、ウイスキー広告のキャッチフレーズ。


広告の歴史のなかで、この時期のウイスキーの広告表現は、

いま思うと、まさに百花繚乱。強烈な香りを放っているんですね。

そういう、だいじな業界の宝物に、もっとスポットを当てなければ。

そして、いまの若い人たちにも語り継いでいかなければ···


そんな想いで、「ウイスキー特集」を組んでみました。




まず話の前提として、

当時、こと酒に関しては、グラフィック広告が圧倒的に強かった、

ということを断っておく必要があります。

つまり、主力メディアは新聞・雑誌、とうこと。


それは「読ませる」広告が主体だった、ということを意味します。


とうぜん、キャッチフレーズは「読みコトバ」で書かれる。

キャッチフレーズでまず「えっ?」「おっ!」と思わせ、

つぎに、ボディコピーへと見る者を惹きこむ。

そして、ビジュアル世界も含め、じっくりゆっくり、味わってもらう。

そういうつくりが、当時の広告の基本構造でした。


(後年、‘90年代をとおし、電波媒体が優位になっていくのに伴って、

キャッチフレーズは「耳で聴くコトバ」へと変化してゆきます。

最終的には、その音コトバが勝利し、いまに至るわけですが)



・・・そういう事情を理解してもらった上で、

まずは名作の宝庫「サントリーオールド」の‘80年代を、

紹介していくことにします。

正直言って、キャッチだけ取り出して読んでも意味がわからない、

という広告も、たくさんあると思います。

それは、上述したような構造、によるものなので、

適宜、解説をつけながら、いきましょう。

(出典はすべて、誠文堂新光社刊「コピー年鑑」各年版より)


1980年>

1.ヒーローなんて、いらないと思った。

2.どっちが人間らしいのか、わからなくなった。

・・・大規模な海外ロケによる「羊飼い」シリーズです。

謎解きにはCMのナレーションがわかりやすいので、

引用します。

「UFOが出そうな荒野で、羊飼いの青年に会った。

彼の目は、どこまでも透明に輝いていた。

僕は、あの純朴さを失ったのかも知れない。

僕らは、ほんとうに豊かなのかな。

あいつに乾杯 サントリーオールド。」

···うーん、今だったら得意先に「で、商品は?」と言われそう。

まず、通らないでしょうね。


3夢のある話を、しようじゃないか。

4中国の「静」に、酔ってしまった。

···これは、大々的な中国ロケの産物。

当時としては画期的な試みで、けっこう話題にもなりました。

これも、CMのナレーションを補足しておきます。

「北京の空気はやわらかだった。
(中略)大陸なんだなあ。
大きな力は、ゆっくり動くんだなあ。
サントリーオールド。」

···のちの「ウーロン茶」の映像より、

もう一段階、前近代的な絵を想像してください。


1981年>

5かくて、陽はまた昇る。

~魚には、いい水が必要だ。人には、いい夢が必要だ~

···これは、サントリー宣伝部を支えた開高健さん登場、の広告。

ハドソン川で「ストライプド・バス」を釣り上げて。


6仕事をするなら、遊びなされや。

7新入社員諸君!

···読ませる新聞広告。開高健さんワールドです。

とくに7.はその後、毎年の定番広告になりました。


1982年>

8夢街道。

9日本の人よ。水の国から来た人よ。

 ···先般の中国ロケ隊は、シルクロード方面へと向かいました。

「中国」「夢」+「サントリーオールド」。

昨今のマーケティングからはつくれない、表現です。

うらやましい···。 


1983年>

10水がある、氷がある。

11火がある、人がいる。

・・・10は水割り、11はホットウイスキー。

なんだか少し、商品に寄りました。

これ、解説しておくと、

「氷」には、「水」という字が見える。

同様に、「火」には「人」がはいっている、

という「発見」です。

当時のぼくは、うわ、すげーな! と思いました。


1984年>

12三四郎の夏。

···夏目漱石の小説の世界観のなかに、

ウイスキーを登場させたものです。


1985年>

13むかしむかしは、麥でした。

···おっ、だいぶ商品に接近してきましたね。

「麦」ではなく「麥」としたところに、

 コピーライターのこだわりを感じます。


1986年>

14そうなんだ。人間の時計は速すぎる。

···森のなかは雨。蕗の葉が傘がわりの、倉本聰さん。

「ウイスキー時間」を語る、新聞広告です。


1988年>

15ワンフィンガーで飲るもよし。

ツウフィンガーで飲るもよし。

···「バブル時代」の特集で、いちど取り上げましたね。

ちょっとかっこいい、飲みかた提案です。


1989年>

16深く、こく、やわらかい。

・・・サントリーオールドの商品スローガン、ですね。

ようやく、商品に到達しました。

これ、いま思うに、アサヒビール「コクがあるのに、キレがある。」

を意識したがゆえの一本だった、のではないかな。

たしかにあのころ、「アサヒのようなキャッチがほしい」コールが、

いろんなクライアントからあったものなあ。



いまの視点で眺めてみると、とくに‘80年代前半、

いかにオールドが、夢を売る商品だったか、

(開高健さんの「人には、いい夢が必要だ」が象徴的です)

いかに、広告を見る人がウイスキーの付加価値を認め、

知的ゲームのようにして、

その商品世界=広告世界を楽しんでいたかが、よくわかります。


酒、というのはほんらい、そういうものでした。

酔いにまかせて、空想、あるいは妄想の世界にあそぶ。

このことは、のちに紹介する「サントリーローヤル」に、

もっと顕著にあらわれます。


ひるがえって、いまの酒の広告。

この、‘80年代方式のコミュニケーションをおこなっているのは、

唯一、大分麦焼酎「二階堂」だけになりましたね。

(時代は、変わったもんです)



・・・では、くだんの「サントリーローヤル」。

まさに「酔いの表現」ともいえるような、

独自の世界を展開しました。


1984年>

17ランボオ、あんな男、ちょっといない。

・・・旅の大道芸人たちを引き連れて、

砂漠をゆく、アルチュール・ランボオ。

とにかくシュールな映像でした。

音楽も、はっきりと耳に残っています。


1985年>

18人を酔わせるのは「いのち」。

···こんどの題材は、アントニオ・ガウディ。

彼の建造物こそ、日常のなかに出現した、

「酔い」そのものなのかも、知れません。


1986年>

19お久ぶりです、ファーブル先生。

・・・「本の虫と酒の虫」という新聞広告もありましたが、

上記2つに比べると、すこし地味だったような。


20ウイスキーに重なる音楽。CMのタグライン)

···つぎは、グスタフ・マーラー。

 交響曲「大地の歌」第3楽章「青春について」が題材です。

この「大地の歌」、ドイツ語訳された漢詩を

マーラー自身がアレンジし、歌曲仕立てとしたもの。

映像は、七福神のような人物のアニメーション。

とにかく、めちゃくちゃクオリティの高い作品です。


このCMがカンヌ広告フェスティバルに出品されたとき、

ちょうどぼくは、カンヌの会場の客席にいました。

CMの終わり際、前述のタグラインが英訳され、字幕として出ると、

会場から割れんばかりの拍手がおこったのです。

どんな訳だったか、なぜあんなにウケたのか、

じつはよくわかっていないんだけど、

とにかく、忘れられない出来事でした。


これら、ローヤルの「酔い」路線をマインドとして受け継ぎながら、

妄想世界を徐々に離れ、

飲むひとのほうに静かに近づいていったのが、

オールドやローヤルより格上とさる、

高級ウイスキーのキャッチフレーズ、でした。


1987年>

21ウイスキーが、しん、としている。(サントリー山崎)


1988年>

22花をながめて、ウイスキー。(サントリー山崎)


1989年>

23体の中で、鍵がはずれる音がする。(サントリー山崎)


1990年>

24なにも足さない。なにも引かない。(サントリー山崎)


cf.1992年>

25時は流れない。それは積み重なる。(サントリークレスト12年)

26ウイスキーは、聴くものである。(サントリー響)


妄想の世界から、現実世界に戻って来た、というか、

すこし「売り」に近づいたというか。

でも結果、どれも骨太で重厚で知的で、大人っぽい。

もはや、ウイスキー文化の大きな財産、だと思います。


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・・・では、今回の締めくくりに、

‘80年代「ギフト」広告のキャッチフレーズを。


25.開けてみれば「愛」(1980)

26.アイラブユー1984

27.ウイスキーをありがとう1985

28.あなたに会えたお礼です。1986

29.さしあげたのは、時間です。1987

30.バケーションを、ありがとう。1988


そして、大トリはといえば、

31.ウイスキーが、お好きでしょ。1991~)


              (つづく)

執筆者:岡田直也
CMは、世の中の動きとまさに連動しています。イケイケの時は
勢いがいいし、沈滞してるときはどこか内省的になったりする。
そういう意味でCM観察とは、立派な社会学・考現学といえます。
それとは対極の「神はディテールに宿り給う」。これもまた事実。
些細な演出の妙など、作り手の意志が際立つ場合も、あるのです。
そう、CMの観かたは、大所高所から重箱の隅にいたるまで無限。
ぼくらがそれを、いろんな角度から提示できれば、と思ってます。

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