ウェブマガジン CM Funコラム

【特集】
広告史上にキラキラと輝く、
'80年代「ウイスキー」3

岡田直也

この「ウイスキー特集」、3回めは、

サントリー以外の広告キャッチフレーズを見てゆきながら、

一気にまとめへと、論を進めてみようと思います。

(ひきつづき出典は、誠文堂新光社刊「コピー年鑑」各年版より)

 

 

まず、「ニッカウ井スキー」。

ことさらサントリーに対抗しようとせず、

独自の路線を、孤高の存在を標榜しているように見えます。

 

1.父よ。1980 ニッカ竹鶴) 

・・・読ませる新聞広告です。

 この前年、創業者であるマッサンこと竹鶴政孝氏が、亡くなりました。

彼を顕彰する企業広告です。

 

2.浪漫の継承。

創造の魔性。1980) 

 

3.浪漫はあるか、お前に。(1981) 

4.北の愛を贈ります。1982

 

5.私はおいしいウイスキーを知っています。1986) 

・・・ソプラノ歌手、キャスリーン・バトルをフィーチャーした、

  とても上質な、印象にのこるCMでした。

  ちなみに、ぼくの記憶が正しければ、あのサントリーがすぐ広告で、

  「そのおいしいウイスキーは、サントリーリザーブです。」とやった。

          そうなんです。サントリーってそういうとこ、あるんです。

     アサヒ「スーパードライ」がブームになった時も、

     「私は、ドライではありません」キャンペーンを、

     タレントを何人も使ってやりましたしね。

 

 

つぎに、「キリンシーグラム」。

ご紹介するのは、「ロバートブラウン」です。

あたらしい争点を示し、サントリーと対決しようとしていますね。

 

6.惰性から個性へ(1980) 


7.原酒の実力。1981)

 

 

さてそのつぎは、三楽オーシャン(現・メルシャン)。

 

若い人は知らないと思うけれど、

この「オーシャンウイスキー」、3番手の洋酒メーカーとして、

長い間がんばってきた会社なんです。

80年代、その「3番手らしさ」が炸裂します。

 

8.今年もますます反逆します。ビクトリーオーシャン。1980) 

・・・キーワードが「反逆」とはね。

  たしかに、アンチ保守本流派の票は、取れるのかも。

  基本的にオーシャンは、こういうスタンスでした。

 

9.またか、と思われるようなウイスキーは、贈らない。1988) 

・・・商品は「オーシャン軽井沢」。山崎や余市クラスの高級酒です。

  反逆、してますねえ。

 

  10.一度でいいから飲んでくれ。1989 オーシャンホワイト) 

・・・かなり話題になった、一本です。

  「売り」のため、コピーに何ができるか。

  しかも、広告主を説得できる範囲で。

  そこを、とことん考えたのですね。

  自虐コピーの代表としても、語り継がれています。

 

 11バーボンのパパなのだ。1990 オールドクロウ)

 

 12どスコッチ。1990 三楽グランツ・センテナリー)

 

 13安くておいしいほうが、高くておいしいより、おいしい。

        (1990 三楽ライフ)

 

ちなみに9~13は、谷山雅計さんの作。

これらのコピーワーク、広告主・オーシャンの戦略というより、

彼個人の「才」に負うところが大きかったのではないかなあ。

 

 

さらに、「外国銘柄」バーボンウイスキーを、2つ。

まず、「ジャックダニエル」(正しくは、テネシーウイスキーですが)。

 

14.大陸杯。

  独立杯。1982

 

15.大開拓。

  大競走。1984) 

   ・・・アメリカン・テイストな新聞広告シリーズでした。


16ナッシュビルの南。

  遠い日のような、今日。1988

 

17122回目のクリスマス。

  ウイスキーの細道。1988

 

18テネシーの月明かり。 


   ・・・1517は、秋山晶さんによる、珠玉のシリーズです。

     お手本にしようにも、真似さえできませんでした。

 

つづいて「オールド・フォレスター」を。

アメリカ好きの心をくすぐる、独特の路線です。

 

19.昨日までアメリカでしか飲めなかったバーボンがある。

       1874年アメリカで初めて瓶詰めしたバーボンは、オールド・フォレスターだった。

      「かわいい女」268ページでフィリップ・マーロウが褒めているバーボン。1989

 

20.こんな考え方のバーボンは、フォレスターが最後かも知れない。1990

 

 

・・・いかがでしたか。まさに百花繚乱、でしたよね。

 

孤高の姿勢をくずさないもの、あたらしい争点を提示するもの、

むしろ下にもぐりこむというか、自虐路線を歩むもの、

知的好奇心を刺激するもの、

そして、「なにひとつ変わらないアメリカ」を描きつづけるもの・・・。

 

メーカーやブランドによって、立ち位置はさまざまですが、

王国サントリー、だけでなく、

こういう、たくさんのコンペティターがしのぎを削ることによって、

ウイスキーの広告は幅を広げ、洗練され、質を高めていった。

それが、‘80年代だったのです。

 

 

さてさて。

この特集の初回には、こんな内容のことを書きました。

 

「‘80年代前半までは、酔いの表現。それが後半になると、

 だんだん醒めてきて、かつ受け手のほうにスッと寄って来た・・・」

 

たしかに、この10年のあいだに、ウイスキー広告は変化したようです。

後半になると、酒に遊ぶ世界は、どんどん描かれなくなっていった。

 

ではその流れ、その後はいったいどうなったのか?

 

結論から言えば、どんどんポップになっていった。

そうとしか、思えないのです。

たとえば「リザーブ友の会」、たとえば「ウイスキー飲もう気分」。

重厚で知的な大人の世界観から、若者の生活感のなかへ。

そんなふうに、変わっていってしまいました。

「恋は、遠い日の花火ではない。」

これを、唯一の例外として・・・。

 

この現象、いまの視点からみると、

ウイスキー独自の世界を自己否定した、ということになるのではないかな。

その、あたらしいポップな世界観って、

どうも、他の酒にカンタンに置き換えることができるんだなあ。

つまりウイスキーが、主戦場を放棄してしまったんだなあ。

 

そうなったのには、もちろんいろんな事情があったのでしょう。

ぼくらの記憶にもあたらしいことだけど、

バブル期以降、ワインブーム、焼酎ブーム、日本酒ブームと、

たてつづけに他ジャンルの酒がもてはやされた。

発泡酒ブーム、みたいなものだって、あったくらいです。

(ちなみにウイスキーブームは、ついぞ到来しませんでした)

そんななか、ウイスキーの売り上げはもとより、

存在感じたいも、ゆるゆるとシュリンクしていったのでしょう。

そこで、あたらしいファンをつくれ!ということで、

若者掘り起こしに躍起になった。そういうことでしょう。

 

 

あの素晴らしい、ぼくの憧れだった、‘80年代前半のウイスキー広告。

その伝統は、おそらく途切れてしまいました。

でも、すこし楽観的になって考えてみると、

「ハイボールってやつが、のこったじゃないかっ!」

 

すこし例えは悪いけれど、

あたかも恐竜が、鳥類に進化したように、

ウイスキーもカタチを変え、強みさえ変えて、

したたかに、いまを生き抜いているわけです。

 

飲み仲間、行きつけの店、なじみの可愛いママ、

そしてハイボールに、男子の大好物・から揚げ・・・。

あのCMには、日本最大のマジョリティ・サラリーマン男性の、

手のとどく憧れが、ちゃんと用意されているわけで。

(井川遥さんもハイボール飲んでいたりして、

 男一辺倒にならないよう、いちおう気はつかっています)

 

うん、あらぬ方向に「進化」したと考えれば、

すこしは溜飲もさがる、というもの。

こんどはこっちで、名作CMを期待してもいいかな。

 

(あ、「春はあげもの」は、じゅうぶん名作かも知れないよ)


<‘80年代の「ウイスキー」記事一覧> 

執筆者:岡田直也
CMは、世の中の動きとまさに連動しています。イケイケの時は
勢いがいいし、沈滞してるときはどこか内省的になったりする。
そういう意味でCM観察とは、立派な社会学・考現学といえます。
それとは対極の「神はディテールに宿り給う」。これもまた事実。
些細な演出の妙など、作り手の意志が際立つ場合も、あるのです。
そう、CMの観かたは、大所高所から重箱の隅にいたるまで無限。
ぼくらがそれを、いろんな角度から提示できれば、と思ってます。

他のコラムを見る

前後のコラム

関連記事

人気の記事

新着記事

コラム一覧を見る