Room708
名づけて「直也の部屋」。 編集長が、プロフェッショナルな立場から、広告を語り尽くします。

では、こんな武勇伝、どうだ! 1

2016/02/28

ではここいらで、とっておきの話、してみようか。

いろいろあって途中でブチ切れて、下りてしまった、という事例。

(そんなこと、あとにもさきにも、この一回だけですよ)


クライアントは、某大手出版社、としておきましょう。恨みつらみを書くことになるんで。

でも、すぐにわかっちゃうかな。


商品は、「古寺をゆく」というタイトルの、いわゆる週刊百科でした。

全国の古刹・名刹について、その歴史や所蔵品を、

周辺の名所などの情報も交えながら解説。

全50回にわたって紹介してゆく、というものです。

ほら、本屋に行くと、ラックにはいってるやつ、あるでしょう? 世界遺産とか。

あれのことですね。

その第1回発売は「法隆寺」。これを題材に、創刊キャンペーンを行うことになりました。


この仕事、営業もCDも基本は東京だったのですが、その当時(1999年だったと思います)

大阪に赴任していたぼくが、コピーライターとして指名され、

スタッフに加わることになりました。


さて、この百科の企画に対する、ぼくの第一印象は、「全世代に売れるぞ!」ということ。

あのころは、「癒し」ブームのまっ最中。みうらじゅんの「仏像」が、

巷の話題にもなっていましたっけ。

どうせ売るんなら、世の中と上手にリンクさせ、共感をもたれるような表現をつくりたい、

そんなふうに思って、このプロジェクトに臨んだんです。


ところがクライアント、「ターゲットはシルバー世代」だと言う。

編集方針も、この百科片手にシルバーが小旅行できるようにつくられているし、

仏像や建築の紹介も、シルバーの心をつかむ方向で行うので、

とにかく年配のひとたちを意識してほしい、のようなことを言われたんです。


ぼくは、それに異議を唱えつづけました。

広告はオールターゲットにして、むしろデートスポットくらいに位置づけたほうが、

ずっと今っぽい。

そういう広がりがないと面白くないし、まして売れないだろ、と信じて疑いませんでした。


そんななか、ぼくはこんな一行を考えたんです。

ビジュアルは、初老の紳士の後ろ姿ボケ(だって、シルバーだって言われてるから)。

むこうに法隆寺の五重塔。ピンが合っている。そこに、


  テラピー。


当時、「○○テラピー」が大流行りしてました。

つまり、寺を「癒しのスポット」ととらえ、寺でテラピー、ってことなんですよ。

ま、解説するまでもないけれど。ぼくのいちばん得意なギミック、なんですけどねっ。


ところがクライアント、「テラピー」なる言葉は、年配者にはわからない、と言い出す。

ああ、 なんてアタマ固いんだろう、と思いましたけどね、正直。


               (つづく)

岡田直也
1955年東京生まれ、札幌育ち。
現在の本拠は大阪・南堀江。
東京・大阪・札幌各コピーライター
ズクラブ会員、エンジン01文化戦略
会議会員、甲南女子大学講師。
各地に私塾を開催、若手の育成にも
力を注ぐ。また年に一度のライブに
命を燃やすミュージシャンでもある。